事例&レポート
新規事業を生み出す人材に必要な経験とは? UPSIDER宮城徹氏が語る事業創出の実践
株式会社UPSIDERホールディングス
株式会社UPSIDERホールディングスは、法人カード「UPSIDER」をはじめ、企業の決済・資金調達を支援する金融サービスを展開。「挑戦者を支える世界的な金融プラットフォームを創る」をミッションに、独自のAI与信技術を活用し、従来の金融サービスでは十分に応えられなかった企業の資金需要に向き合いながら、事業領域を拡大しています。
次世代経営人材育成サミット2026秋 Day1 開催レポート
「実際に事業として成立する手応えを得たのは、お客様のもとへ、何度も足を運んだからだと思っています」
UPSIDERホールディングス代表取締役社長の宮城徹氏は、法人カード事業を構想した当時をこう振り返りました。
新しい事業を生み出す人材には、何が必要なのでしょうか。事業機会を見いだす力は、どのような経験を通じて育つのでしょうか。
Aoba-BBTでは、経営者の実践を通じて、これからの経営を担う人材に必要な視点や経験、企業としての育成のあり方を考える「次世代経営人材育成サミット2026秋」を全2回で開催しています。
2026年10月14日に開催したDay1のテーマは「構造変化を、事業機会に変える力」。
宮城氏の事業創出・成長の経験と、Aoba-BBTの政元竜彦による構想力の育成論から、新規事業を生み出す人材に求められる力と、その育成のあり方を考えました。
100〜200社への顧客訪問で確かめた、事業機会の可能性
宮城氏が法人カード事業の着想を得た背景には、ロンドンで働いていた当時の経験がありました。
「ロンドンで働いていた頃、金融領域ではスタートアップが次々と生まれていました。後に『フィンテックバブル』と呼ばれる時期ですが、私はまさにその渦中にいました。既存の銀行ビジネスに挑戦することを掲げた企業も数多くあり、私自身もそうしたサービスを利用していました。ただ、それらはすべて個人向けだったのです」
個人向け金融サービスで起きている変化が、法人向けにも広がるのではないか。宮城氏は、そうした可能性を考えていたといいます。そして、その着想が事業として成立するかどうかを見極めるために行ったのは、実際に顧客のもとへ足を運ぶことでした。
当時、宮城氏は100〜200社ほどの企業を訪問。サービスについて説明する中で、顧客がどのような反応を示すかを確かめていました。
「資料や料金を提示せず、サービスの構想だけを伝えたときに、『それがあったら絶対に使いたい。早く提供してほしい』と言ってくださるお客様がいるかどうかを、非常に重視していました」
資料や料金を提示する前から、サービスの構想に強い関心を示す顧客がいるか。宮城氏は、その反応を事業の可能性を判断する材料にしていたのです。一方、事業の背後にある社会の構造的な変化については、最初からすべてを見通していたわけではないと語ります。
「その背景にどのような社会構造の変化があるのかは、事業を始めた後に考えたことです。実際に事業を成長させる中で、私たちがどのような社会の変化を捉えていたのかを整理し、振り返っていきました」
新しい技術やサービスの登場から将来の変化を想像する。一方で、事業として成立するかどうかは、顧客との対話を通じて確かめる。宮城氏の経験からは、事業機会の発見が机上での市場分析だけで完結するものではないことが分かります。
新規事業を担う人材には、社外の変化に触れ、顧客と対話し、自らの仮説を検証する経験が必要ではないでしょうか。
「自分たちはなぜこの事業を始めたのか」――競合の参入で問い直した本質的な価値
事業を生み出した後にも、経営者には新たな判断が求められます。
法人カード事業が成長する中で、市場の競争が激しくなり、厳しい局面を迎えた時期もありました。質疑応答で、この状況にどう向き合ったのかと問われ、宮城氏はこう答えました。
「乗り越えたというより、自分たちが提供している本質的な価値に、改めて目を向けることにしました。当時は法人カード事業が大きく成長していたこともあり、いつの間にか、その事業のことばかり考えるようになっていました」
そこで立ち返ったのが、そもそも自分たちはなぜこの事業を始めたのか、顧客は何を評価してくれているのかという問いでした。
「私たちはなぜこの事業を始めたのか。なぜお客様に喜んでいただけているのか。その理由を、一つずつ掘り下げて考えました」
宮城氏らが改めて着目したのは、与信の大きさと速さでした。
「私たちの本質的な強みは、業務プロセスの課題を解決することにあるのだろうか。お客様には評価されていましたが、一つだけ強みを挙げるとすれば、本当にそこなのかと考えました。そして、実は与信力こそが強みなのだと気づいたのです」
この問い直しをきっかけに、UPSIDERはAIを活用した与信を軸として、中小企業の資金繰りという課題に向き合う事業へと展開していきました。
「実は創業当初から、その方向性を掲げていました。ただ、目の前の事業の成長に集中する中で、当初の構想に立ち返る機会が少なくなっていたのです」
法人カードという商品そのものではなく、顧客に提供している本質的な価値は何か。宮城氏は競合の参入を、自社の戦略や競争力を見直す機会として振り返っています。事業が成長すると、既存の成功モデルを維持することに意識が向きやすくなります。しかし、競争環境が変化すれば、それまでの強みを捉え直す必要があります。宮城氏の経験は、事業を立ち上げるときだけでなく、成長や転換の局面でも、自ら問いを立て直す力が求められることを示しています。
「失敗したこと自体の責任は問わない」――挑戦を支える経営者の姿勢
新規事業には、想定どおりに進まない局面がつきものです。質疑応答では、困難な状況でもチームが挑戦を続けられるように、リーダーとしてどのようなコミュニケーションを意識しているのかという質問が寄せられました。宮城氏が挙げたのは「明るさ」でした。
「物事に対しては慎重で、悲観的な見方もします。しかし、リーダーとしては、明るく振る舞うことを大切にしています」
「大変な時ほど笑顔で、『面白い状況になってきたね』と伝えます。壁に直面したときも、『こういう壁があるからこそ、多くの人は挑戦しない。私たちは一つずつ乗り越えていこう』と伝えることが重要だと思っています」
事業が順調なときだけでなく、厳しい状況でも挑戦を続けられるかどうか。そこには、リーダー自身の物事の捉え方や振る舞いが影響するといいます。さらに、新規事業に失敗した人材への接し方について、宮城氏はこう語りました。
「私自身も新規事業では失敗することがあります。ですから、失敗したこと自体の責任を個人に負わせることはしません」
「もちろん、振り返りは必ず行います。何がうまくいき、何が想定と違っていたのか。もっと考えられることはなかったのか。そうした点を検証したうえで、次の挑戦に向かえるように応援し、後押しすることを大切にしています」
失敗の原因を検証することと、失敗した人材に責任を負わせることは違います。宮城氏は、結果を振り返りながらも、次の挑戦につなげることを大切にしているといいます。
また、新しい事業を生み出す人材と、既存事業を大きく成長させる人材では、求められる素質が異なるという見方も示しました。
「新しい事業を生み出す人材と、既存の事業を大きく成長させる人材では、求められる素質がまったく異なると考えています」
「そうした人材を大切にできるかどうかは、失敗したときの対応やコミュニケーションに大きく表れます。経営者の一つひとつの態度が、会社の風土をつくっていくのだと思います」
新規事業人材の育成では、個人の能力や適性に目が向きがちです。しかし、挑戦した結果を組織がどう受け止めるか、失敗から得た経験を次に活かせるかも、重要な論点です。
「本人がそういう生き方をしたいのか」――新規事業を担う人材と会社の関係
宮城氏が重視していたもう一つの視点が、新規事業に取り組む本人の意思です。
「会社から与えられたミッションだから取り組むということよりも、本人が本当にそういう生き方をしたいと思っているのか。そして、そう考えている人を会社として適切な役割に配置できているのか。そうした本人と会社の対話が、とても大切だと思っています」
新規事業の担当者を選抜する際、企業はこれまでの実績や能力、適性に目を向けます。しかし、本人が何を実現したいのか、どのような挑戦を引き受けようとしているのかという意思も、見逃すことはできません。
会社が取り組ませたいテーマと、本人が取り組みたいテーマは一致しているでしょうか。
能力や適性を見極めるだけでなく、本人の意思と挑戦の機会をどう結びつけるか。新規事業を担う人材の選抜・配置においても、考えるべき視点といえます。
「自ら問いを立てる力」をどう育てるか――構想力の実践
では、新規事業を生み出す人材に必要な力を、企業はどのように育てればよいのでしょうか。
Aoba-BBTの政元竜彦は、新たな事業を生み出すために必要な能力として「構想力」を紹介しました。
「構想力とは、現状の延長や常識にとらわれず、ゼロベースで未来を描く力です。また、事象の背後にある構造や本質を見抜き、異なる情報を結びつける力でもあります」
構想力とは、まだ見えていない将来の社会や顧客、事業環境を考え、その中で自社がどのような役割を担うのかを描く力です。政元が特に重視したのは、自ら問いを立てる力でした。
「私たちは学生時代から、与えられた問いをどう解くかということに多くの時間を費やしてきました。そのため、自分で問いを見つけることが苦手になっているのです」
街の違和感から、変化の可能性を考える
Aoba-BBTでは、こうした力を養うため、日常の違和感や未来の予兆を見つける実地ワークを取り入れています。講演で紹介されたのは、軽井沢の街を歩き、違和感を探すワークです。
「実際に軽井沢へ行き、一日かけて街を歩き、調べてもらいます。そして、『この街に対して、どのような違和感を覚えましたか』と問いかけるのです」
なぜ、ここに商業施設があるのか。なぜ、交通の利便性に課題が残っているのか。身近な疑問でも、背景を掘り下げていくと、地域の歴史や産業構造など、表面的な現象だけでは見えない要因が浮かび上がってきます。
「大切なのは、こうした違和感を見過ごさないことです」
さらに、未来の予兆と思われる事象を集め、それが10年後にどのような変化につながるのかを考えるワークも紹介しました。同じ事象を見ても、人によって気づくことは異なります。その違いには、自分なりの問題意識や仮説を持って観察しているかどうかが関係するといいます。
政元は、AI時代の経営人材育成では、従来重視されてきた情報収集や戦略立案に加え、問いを立てることと、構想を実行することが重要になっていると指摘しました。
「AI時代には、特に『問いを立てること』と『実行すること』が重要になると考えています」
そして、自分自身で取り組むテーマを設定することの重要性にも触れました。
「事業というものは、自分が本当に取り組みたいと思って設定したテーマでなければ、最後までやり抜くことは難しいのです。困難な状況が次々と訪れるからです」
宮城氏の顧客訪問と、政元が紹介した違和感を探す実地ワーク。方法は異なりますが、現場に出て変化を捉え、自ら問いを立て、確かめていくという点に接点があります。
構想力の育成とは、知識やフレームワークを習得することだけではありません。何を問題と捉えるのかを自ら考え、問いを立て、行動につなげる経験を積むことでもあるのです。
関連記事: 構想力とは?未来を描き、ゼロから価値を築くための思考
新規事業人材の育成に、企業はどのような経験を用意できるか
宮城氏の経験から見えてきたのは、新規事業の創出が、一度のひらめきや優れた事業計画だけで実現するものではないということです。
海外で新しい金融サービスに触れ、多くの顧客を訪ね、事業の可能性を確かめる。競合の参入に直面したときには、自社の本質的な価値を問い直す。そして、失敗した人材を責めるのではなく、次の挑戦につなげる。
一方、政元が紹介した構想力の育成も、知識を身につけることだけではなく、自ら違和感を発見し、問いを立て、構想を実行する経験を重視するものでした。今回の講演から、新規事業人材の育成には、三つの視点が見えてきます。
第一に、自社や自部門の外に目を向け、変化の兆しを捉える経験です。 日常業務の範囲を超えて社会や顧客の変化に触れることが、新たな事業機会への気づきにつながります。
第二に、自ら問いを立て、顧客との対話を通じて検証する経験です。 与えられた課題を解くだけでなく、何を課題と捉えるのかを自分自身で考え、その仮説を確かめる機会が必要です。
第三に、不確実な状況で判断し、失敗を次の挑戦につなげる経験です。 事業を構想するだけでなく、想定外の状況に向き合い、自ら判断し、行動し続ける力が求められます。
そして、これらの経験を支えるのが、本人の意思と組織のあり方です。
企業は新規事業人材に知識やスキルを身につける機会を提供するだけでなく、本人が自ら取り組むテーマを見つけ、顧客に向き合い、失敗しても次の挑戦ができる機会を、どれだけ用意しているでしょうか。
新規事業人材の育成を考えるとき、何を教えるかだけでなく、どのような経験を任せ、挑戦をどう支えるか。その両面から育成のあり方を問い直す必要があるのではないでしょうか。
新規事業を生み出す人材の育成に向けて
新規事業を生み出すためには、社会の変化から事業機会を見いだす力と、それを具体的な事業として形にする力が求められます。Aoba-BBTでは、こうした力を育成するための実践的なプログラムを提供しています。
構想力・イノベーション講座
現状の延長や常識にとらわれず、未来の可能性を捉え、新たな事業を構想する力を鍛えるプログラムです。
ABS事業家道場
自ら事業を構想し、顧客課題の検証から事業計画の具体化まで取り組む、実践型の事業家育成プログラムです。
登壇者プロフィール
宮城 徹 氏
株式会社UPSIDERホールディングス 代表取締役社長
東京大学卒業後、2014年にマッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社。東京・ロンドンの両拠点で、大手金融機関のデジタル戦略や全社変革プロジェクトに携わる。金融業界の課題に対する問題意識と経験をもとに、2018年に株式会社UPSIDERを共同創業。法人カードやAI与信を活用した金融サービスなど、企業の挑戦を支える事業を展開している。
政元 竜彦
株式会社Aoba-BBT 代表取締役兼社長執行役員兼最高経営責任者(CEO)兼チーフコンテンツオフィサー(CCO)
慶應義塾大学経済学部卒業。大手総合商社で海外事業のマネジメントを経験した後、1999年に現Aoba-BBTへ入社。教育コンテンツの企画・開発、新規事業、経営人材育成に長年携わる。これまでに4,000人以上の経営人材候補の育成に関与。2026年9月に代表取締役社長に就任。
次世代経営人材育成サミット2026秋 Day2のご案内
Day1では、新たな事業を生み出す人材に必要な力と経験を考えました。
続くDay2では、既存事業や組織の中で成果を上げてきた人材が、経営を担う立場へと成長する過程に焦点を当てます。
- Day2「市場を捉え、組織を動かす力」
~部門で成果を上げる人材は、どうすれば経営を担えるのか、どう行動が変わったのか~ - 開催日時:2026年11月19日(木)12:00~13:00
- 登壇者:伊勢英一郎氏(日清製粉株式会社)、政元竜彦(株式会社Aoba-BBT)